NEWS

news

2019-10-30

ごあいさつ

 アートには無限の力があります。勇気づけたり、優しい気持ちにしてくれたり、また希望を与えてもくれるでしょう。そんなアートは、現代のグローバル化する日本や世界を生きていく中では、ますます大切で有意義な営みとなっています。それは政治や経済、また産業や情報通信などにはできない力があるからです。しかしアートは逆に不安を掻き立てたりもすれば、なにか支配的な力となって私たちに圧力をかけてくることもあります。そこではアートはすがすがしく、華やかなものというより、何か陰鬱で目を背けたくなるような闇の隙間を見せてくれるものでもあります。アートはこのような両義的な力をもって私たちの身の回りに偏在しています。私たちは自律した意識を持ってアートと向き合い、人間や世界の本当の豊かさについて知っていくことが求められているのだと思います。

 今日、私たちが暮らす社会はもちろんのこと、私たち自身も、仕事、人間関係、政治、人種、国籍など、あるいは家族の過去、個人的な習慣、母語など、様々な「徴し」に取り付かれています。このような「徴し」なしには私たちは自分を見失い、居場所をなくしてしまいますが、この「徴し」は同時に私たちを縛るものでもあるでしょう。〈徴しの上を鳥が飛ぶ〉というこのプログラムのタイトルは、この世界の、この私たちに取り付いている様々な「徴し」から自らを解放することはできるのか、できるとすればどのようにか、その時世界はどのような姿を見せるのかという問いかけでもあります。このプログラムではアートの力を信じ、アートの力を通して、作る人も見る人も世界の多様性を理解し、そこに生じる軋轢や対立を乗り越えて、私たちのいわば「徴しなき徴し」を見出していくプロセスを探して行ければと思っています。

 このプログラムは3年間のプログラムとして考えています。今年はその第1年目にあたりますが、まずいろいろなアートに触れることで、現代社会とアートの関係、現代社会をアートを通して考え直していく、そんなきっかけになればと考えています。

文学研究科 永田靖

一覧へもどる